荒井裕之の分析

未来を創造する力が
「衰退から再生への唯一の道」

荒井裕之
経済コラムニスト
コンサルタント
荒井裕之

<未来を創造する力>が「衰退から再生への唯一の道」

元気のない今の日本を見ていると、ほぼ絶望的な感じさえしてきます。私は2004年から香港、中国、シンガポール、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアなどを中心としたアジア経済圏へ投資をしています。2007年には日本を脱出して香港に居住し、より一層過熱するアジア経済圏に向かっています。なによりも中国をはじめとするアジア経済は元気がいい。中国の年率11%くらいの成長率を筆頭にどの国も成長しています。人口減、過大な国の借金で、新聞に載るのは事件と増税の話ばかりの日本に比べて、人々の表情も明るい。ただし、こうした成長は決して偶然や勢いで成り立っているものではありません。どの国も相当の期間、将来を見据えてハード、ソフト、人材育成面で準備をしてきた結果なのです。

例えばシンガポールを紹介してみましょう。80年代に石油や電子機器などの加工貿易で東南アジアナンバーワンの成長を誇ったシンガポールもアジア通貨危機以降、成長が停滞しました。そこで国は将来の世界の経済動向をにらみ、次世代の成長セクターを設定して、人材の招聘やインキュベーションセンターの整備、世界の大手企業の研究開発機関や有望なベンチャーを誘致する、というプロジェクトを立ち上げました。有望なセクターとは、通信、メディア、物流、金融、化学、精密機器(半導体)、バイオメディカル、ヘルスケア、ナノテクノロジーなどです。世界経済が発展・拡大していく上でこれらの産業セクターは、激しい競争で新しい技術やサービスがどんどん生まれている分野です。

今世界の潮流として、「オープン・アーキテクチャ」「オープン・ビジネスモデル」というものが注目を浴びています。これはどういうことかというと、大企業が技術を独占するのではなく、基本的なプラットフォーム(仕様)を公開して、それぞれ得意分野の企業が開発していく、というものです。グーグルやヤフーはSNSや携帯のプラットフォームを開放して、世界中の技術者がアプリケーションを開発できるようにしています。シスコシステムも自社で製造技術を開発するよりも、有望なベンチャー企業を見つけては買収や提携するという戦略です。今や世界の成長産業セクターではこの「オープン・ビジネスモデル」ということが当たり前になっているのです。つまり、日本の企業家にも意欲さえあれば、世界中をマーケットに出来る可能性があるのです。

停滞する日本の大企業・官僚社会、縮小社会の中で、新しいビジネスをスタートして成功することは、厳しい。でも海外を見れば、成長産業セクターがオープンに企業家を待ち構えています。日本でこれから起業していくに唯一必要なことは「世界ナンバーワンになろうとする夢と意志」なんです。

私はかつてベンチャー投資を職務としていました。90年代のインターネット草創期にはまだ、新しい産業が生まれる可能性や素地がありました。しかし2000年以降は、少子高齢化と社会保障負担の増額や国債残高の急増などで急速に成長がストップしてしまった。加えて国がシンガポールのように<新産業>を創造する施策を講じなかったため、人材やノウハウが全く育たなかった。いわば民間任せにしてしまったのですが、疲弊している金融・証券業界が未来へ投資するはずもなく、短絡的な企業投資に終始してしまったために、未来創造型の企業がとても生まれにくい構造になっています。言い換えれば証券会社は<上場しそうな売上利益基準の会社>のみにしか投資をせず、未来の世界型企業への目利機能が喪失してしまったのです。

未来の世界企業とはなにか?

それは「新しい価値観やコンセプト、知識と技術の組み合わせで、社会や人のライフスタイルを変えるもの」なのです。例えばグーグルはネットと人の結びつきを変えました。SNSのマイスペースは人と人のコミュニティ構造を変えました。アップルは音楽と人の距離を変えました。インドのインフォシスは、アメリカ企業の生産性を変えました。私は日本でかつて多くの起業家予備軍に会ってきました。苦言を呈するとすれば、ほとんどが「いいアイデアマン」なのです。世界や日本の経済構造や経済生態の本質を見抜き、根本から変えるという視点が、今の起業家には必要です。なぜならば、今の日本の大企業社会、官僚社会がいくら頑張っても日本は救えない。世界規模のベンチャーが生まれることこそが日本を救う道だからです。

PROFILE

1964年生まれ。早稲田大学法学部卒業、地方銀行、大手コンサルティング会社を経て、ベンチャー キャピタルファーム投資マネージャー。数多くの上場企業を発掘・育成を経験。1999年、企業コンサルティングとしてグラスルーツ設立。2000年より華 僑系投資会社(香港)ディレクター。香港・本土企業と日本ベンチャーとの提携、華僑投資家への日本ベンチャー投資コンサルタントなどを香港べースで行う。 現在は、香港とベトナム・ハノイをベースにベンチャーコンサルティング、中国・アジア諸国への投資コンサルティング、執筆、講演活動などを行っている。専門はベンチャー・SME(中小企業)ファイナンス。
主な著書に、「中国株必勝術」(ダイアプレス)、「中国株最強銘柄50PLUS」(ダイアプレス)、「中国『大化け』株~華僑投資で儲ける」(ぱる出版)、「アジア株投資で1億円儲ける」(中経出版)。

エンジェル : 起業支援の新しい投資家 「エンジェル : 起業支援の新しい投資家」(宝島社新書)

内容
あなたの起業プランを実現させる新しい投資家が現われた! 大企業主義の産業社会は、銀行の破綻と淘汰に典型的に現われているように、その終焉を迎えた。 このままでは、永遠に日本はアメリカに太刀打ちできない。 長引く不況を打破する「起業家社会」創出のために、エンジェルの不可欠な時代が到来したのである。

目次
第1章 エンジェル、そしてエンジェル投資とは何か?
第2章 エンジェルとベンチャー・キャピタルの違い
第3章 創業が熱いブームとなっている
第4章 まずはビジネスプラン
第5章 エンジエルの探し方・エンジェルとのつき合い方
第6章 エンジェル投資受け入れに成功した会社
第7章 エンジェル・キーパーソン
第8章 ベンチャー支援団体と推薦図書